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盛岡家庭裁判所 昭和40年(少)465号 決定 1965年4月26日

少年 H・I(昭二〇・九・四生)

主文

少年を盛岡保護観察所の保護観察に付する。

押収してあるくり小刀一丁(昭和三九年押九一号の一)を没取する。

理由

(非行事実)

一、少年は、行先のあてもなく、昭和三九年一二月○○日午後七時○○分頃、一関市山ノ目青葉町○○タクシー有限会社○○○営業所から、同社運転手小○豊(二七歳)の運転するタクシーに乗車し、後部客席から、同運転手を指示して、仙台市内まで運転させ、同市内に入ると行先を福島市内に変更し、同市に向けて走行させ途中、さらに行先を東京都内に変更し、同運転手が断ると、福島市近郊から、所携のくり小刀(昭和三九年押第九一号の一)を取り出し、背後から同運転手の肩に突きつけた上、「俺はやくざだ。一二時まで東京に行かないと命にかかわる。」などと申し向けて、その反抗を抑圧し、同運転手を強いて東京都内に向けて走行させ、同日午後一一時頃、郡山市字○○×××番地先○号線国道上にさしかかつた際、同運転手が、隙をみて同車を急停車させ、少年に殴りかかり組み付いたところ、やにわに、右くり小刀で、同運転手の胸部、肩部を三、四回突き刺し、切り付けるなどの暴行を加え、同運転手のひるんだ隙に乗じて逃走し、よつてその間の乗車料金一万三、〇〇〇円の支払いを免かれて、財産上不法の利益を得たが、その際、右暴行により、同運転手に対し、加療三週間を要する胸部および右肩甲部刺創の傷害を与えたものである。

二、少年は、正当な理由がないのに、昭和三九年一二月○○日午後一一時頃、郡山市字○○×××番地内において、刃渡一一、三センチメートルの前記くり小刀一丁を携帯したものである。

三、少年は、保護者の正当な監督に服さず、昭和四〇年四月○日午時八時頃から同月△日午前一時頃までの間、釜石市○○町○○三の○○○飲食店「○る○や」こと永○栄(五三歳)方において、二、三七〇円代飲酒し、自己の徳性を害する行為をなし、その性格、環境に照して、将来罪を犯すおそれがあるものである。

(法令の適用)

非行事実一について 刑法第二四〇条前段、第二三六条第二項

同二について 銃砲刀剣類等所持取締法第二二条、第三二条

同三について 少年法第三条第一項第三号

(処遇)

少年の家庭環境、生活史、学業、職業関係、性格、行動傾向、近隣、交友関係、心身の状況等は当裁判所調査官鶴田教蔵が本件について作成した少年調査票記載のとおりであるから、その記載を引用する。

少年を主文掲記の保護観察処分に付する理由は次のとおりである。

一、本件非行一、二の事実は、少年が昭和三九年七月六日の暴行事件の被害を受け、釜石市立病院に入院し、右暴行による腸管破裂の手術治療を受けたが、余後不良の上、家庭の経済的貧困から、完治しないまま退院し、その後の入院加療も思いどおりにならず、もつぱら自宅療養をしていたところ、経過不良で身体の不調を来たし、そのため、生来の無力性がさらに強まり、絶望的な気持から、自棄的になつて自殺を思い立ち、深く考えることもなく、家出をし、東京に向う途中において発生したものである。

二、本件非行三の事実は、少年が、同一、二の事実によつて、盛岡少年鑑別所に収容され、間もなく、身体不調のため、同所を出所したが、家庭に充分な療養をさせる精神的、経済的余裕がなかつたため、前記手術の経過不良で、時折血便をもよおすなど、かえつて身体の不調を助長する結果となり、これを苦慮した末、病気を完治し、職場に復帰しようという自信をうしなつて、ふたたび、挫折感におちいり、その憂さを晴らそうとして犯したものである。

三、本件非行一の強盗致傷は、事案重大であり、被害も必ずしも軽いとはいえない上、被害の弁済もなされていないが、少年に改悛の情が認められ、少年および保護者に、被害の回復に努力する誠意が認められる。

四、少年は、性格的に、無力性が強く、感性もやや強いが、知能的、精神的にも別段の問題がなく、家庭的にも、保護能力の点を除き、別に問題はない。

五、少年の問題は、前記暴行事件にはじまる身体の不完調および精神の不安定による急性の情動不適応に起因する。これを除去することにより、心的安定は回復され、問題行動はなくなる性質のものと考えられる。

六、少年は、本件非行後、深く反省するかたわら、漸次回復する体調に気力を充実させ、体力の耐えうる限り、習い覚えた熔接の技術を生かし、鍛冶工として一生を送る希望を持つており、更生を誓つている。

七、したがつて、少年の将来の健全な育成については、在宅保護をもつて十分と考えられるが、少年の保護者および家庭には、保護能力が極めて低いと認められるので、専門機関による保護指導が相当と認められる。少年の身体不調については専門医の親切な具体的指導が必要であり、少年の心的安定をはかるためには、少年の心の支えとなる強い支持、激励者が必要であり、家庭には経済的な面は別として、少年の悲しみを十分理解し、慰め、励してやる暖い配慮がのぞまれる。

よつて、少年法第二四条第一項第一号、少年審判規則第三七条第一項を適用し、押収してあるくり小刀一丁(昭和三九年押第九一号の一)は、非行一、二の行為を組成した物件で、少年以外の者の所有に属さないことが明らかであるから、少年法第二四条の二第一項第一号、第二項により、これを没取することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 玉川敏夫)

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